かつて傘は自前の馬車を持つていない人の象徴だった

日本人が番傘をさしていた時代には、イギリスではすでに傘の軽量化に成功していた。

はじめは太い籐の骨に油などで防水加工した麻の布を貼った傘が使われていた。
しかしこれは見た目も悪く、かなり重かった。

つぎに、骨にクジラの骨が使われるようになり、布も少し軽い木綿や絹が使われるようになった。

そして1850年に鋼鉄の骨が登場した。やがてフレームがU字型のスチールになり、弾力性のある材質で、現在のような丸みのある傘の完成となったわけだ。
そしてこれは、イギリス紳士がつくった数少ない実用品とのことだ。
ところが傘は、はじめは人々からあまり歓迎されなかった。重かったし、格好が悪かったことももちろんあるが、たいそうイギリスらしい理由があったのだ。
つまり、「傘をさしていることはすなわち、自前の馬車をもっていないことの証明であったから」だそうだ。また、日本でも雨が降ると突然タクシーに行列ができるように、傘はロンドンの辻馬車の仕事を奪うものとして、御者だちからも白眼視されたとか。

なんの役に立つのかよくわからないステッキをもって歩くより、傘をもって歩いたほうがよほど役に立つと思うのだが、プライドの高いイギリス紳士には別の考えがあったのだろう。

しかし、なんといっても雨の多い国だ。時代とともに傘派は増え、紳士の持ち物のひとつとして洗練され、素晴らしい傘をつくるブランドもいろいろ登場してきた。

紳士の持ち物は、それがなんであれ、フロックコートとシルクハット姿に似合うもの、という条件がある。

そこで、紳士向けブランドでは傘も一本一本が丁寧なハンドメードとなる。とくに握り手のハンドルの部分はこだわりの対象となり、葦で巻いたり、ヒッコリー、マラッカ(インド産の籐)などを磨き上げたり、皮張り、彫刻付きなどが生まれた。

ヴィクトリア王朝時代から続く紳士用品のブランド「フォックス」では、握り手の先に動物の顔が彫刻された傘があり、すでにヴィクトリア王朝時代に人気商品になっている。