プロ用ダイバーズウォッチを作った一通の手紙

スキューバダイビングに熱中する人が年々増えている。幻想的な海の中の世界を気軽に散歩できる快感は、一度体験するとやみつきになるらしい。とはいっても、自然を相手にするのだから、万全の準備が必要。ダイビング用品はもちろんだが、ついつい海の美しさに見とれて長居をしないためにも正確な時計が必要である。

さて、時計は水に弱い”というのは過去のことで、いまでは高性能なダイバーズウォッチが数多く開発されている。なかでもプロのダイバーたちに大人気のメーカーが、セイコー社だ。これは、いったいなぜなのだろう。答えのひとつに、こんなエピソードがある。

ある日、セイコー社へ広島のプロダイバーから手紙が届いた。

その内容とは、ヘリウムをふくんだ空気の入っだカプセルに乗って、深い海で作業をおこなう(プロのダイバーは、通常のスキューバダイビングのように酸素ボンベを背負うのではなく、カプセルに入ったまま海に潜る場合もある)と、水圧の凄さももちろんだが、小さな分子であるヘリウムが、時計の内部に侵入して時計を壊してしまうし、場合によっては、ヘリウムの侵入がきっかけで時計が爆発してしまう。
また、海底での作業は、敏速な行動がとりにくく岩礁に時計をぶつけてしまい、時計が何個あっても足りないという。

そこで、そんな深海の水圧にも耐え、またどんな小さな分子も通さず、少々の衝撃では絶対に壊れない、ダイバーのための頑丈な時計をぜひ開発してくれ、というものだった。

そのころ、ISO(国際標準化機構)規格では、ヘリウムを使って潜る場合のダイバーズウォッチに対する明確な基準というものはなく、メーカーサイドとしては商品化のための問題にはなりえないとの見解だったのだが、セイコー社はプロに通用する時計をつくりたいと、ヘリウムを使っても壊れないダイバーズウォッチの研究に乗り出した。そして七年の歳月をかけて600メートルの深海まで潜れる高性能のダイバーズウォッチの製品化に成功した。その後もつぎつぎと開発を重ね、セイコー社はプロのダイバーからの絶大な信頼を獲得するにいたったというわけだ。